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「いただきまーす!」 第23話

2020/09/27
 
 
 
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たく かずと(ペンネーム) 某県で20数年公衆衛生獣医師として勤務し、退職。 家族とともに地元の自然と旬の味覚を存分に味わう日々を楽しんでいます。

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第23話

ようやく暑さが和らいだ週末の午後。
郷浜市内のライブハウス、70’S(セブンティズ)。
山田、一平、木村、そして優子が黒ワイシャツと黒パンツ姿でカウンター前に集まった。

いやあ、木村さんも手伝ってくれるなんて…。
こんな木村さんもカッコいいなあ…。

「こら一平、チラ見してんじゃないの!」
「してませんよ!」
慌てて山田に向き直る。
木村は優子に歩み寄り、にっこり笑った。
「神代優子さん、ですよね。初めまして。木村真知子っていいます。今日、神代さんのお手伝いさせていただきます。よろしくお願いしますね。」
「神代優子です。おばあちゃんが、田中さんのアパートの大家なんです。」
「田中さんとは、おばあちゃんの所でたびたびお会いしてまして。それで今日お声かけしていただきました。」
山田が付け足す。
「木村さん、ロビンは知ってるよね?」
「神代さんはロビンの店員さんなのよ。私がロビンでよく神代さんを見掛けてて、仕事っぷりがいい人だなと思ってたんだ。一平君が知り合いみたいだから頼んでもらっちゃった。」
「サービスのプロがいると、場がしまってカッコいいでしょ?」
「えー、プロなんかじゃないですよ。ただのバイトですから。」
「けど今日は、一生懸命やらせてもらいます。結婚された方のお祝いですもんね。私も楽しみで。」
「それにしても木村さん、スタイルいいですよね。田中さんが見とれるのもしょうがないかなあ…。」
「えー、またあ。そんなことないですよ。」
「だから見とれてないってば!」
一平の言葉は意にも介さず、優子が山田と木村に微笑みかける。
「あ、私のこと、みんな優子って呼んでるんで、そう呼んでくださいね。」
優子の言葉を聞き、山田がにっこり笑いながら両手を腰に当てた。
「さあ、今日はみんな、よろしく頼むね。しまっていくよ!」
「はい!」
山田の気合いに皆が応じ、一斉にフロア内に飛び散った。

今日は津田の結婚をお祝いする会。
店は郷浜食検で貸し切りにしてもらった。
山田が監督総指揮と進行役で、木村と優子ちゃんが食事や飲み物のサービス。一平は山田の脇にくっついて、その他諸々、一切を引き受ける。要は雑用係だ。

「テーブルとイスの配置はこんなもんね。」
「あ、あれステージ脇に置いといて。」
山田が観葉植物の鉢植えを指差す。
「了解っす。」

って、これ重てえ…。

「おーい、来たぞお!」
いきなりドアが開き、石川が数人のオジサン達を引き連れてドヤドヤと入ってきた。
「おい、一平、それジャマ!どっかもってけ!」
石川が一平が置いたばかりの鉢植えを指差す。
「え?」
「いいからどかせよ。セッティングすんだから。おし、やろうぜ。」
石川がどけよと言わんばかりにオジサン達とステージに上がり込み、ガチャガチャと機材を広げ始めた。
なんだよ、せっかく持ってきたのに、と、山田を見るが、山田は木村や優子と話し込んでいて、こちらに全く気付いていない。

んったく、しょうがねえな…。

よっこらせっと鉢植えを元の場所に戻し、今度はカウンター脇の段ボール箱を運び始める。
「一平君、それ、後でいいから。優子ちゃん連れてロビン行ってきて!あれ?まだあの鉢植え動かしてないの?」
「全くもう…。いいから早く行って来て!」

おいおい、なんだよ…。

ふくれる一平の肩を優子が突つく。
「田中さん、もう行かないと。」
「あ、そうだね…。」
二人で駐車場に向かった。

優子を車に乗せ、ロビンへと市街地を走り抜ける。
「いよいよですね。楽しみだなあ。」
「そうだね。なんかうちの人達気合い入っちゃってて、なんかすんごいことになっちゃいそう。ちょっと怖いよ。」
「食事のサービスなんて俺ら全然分かんないから、ここはもう優子ちゃん頼みだよ。先生、どうかよろしくお願いします。」
「えっへん、どうぞお任せください。もうマスターと打ち合わせ済です。」
「マスターは後で合流しますからね。」
「けどスープやメインの入った寸胴とか食器とか、荷物一杯ありますよ?田中さん、大丈夫ですか?」
「なんか今日の俺の役割って、力仕事全般みたいなんで。」
「明日、筋肉痛確定だね。」
一平は運転しながら苦笑いした。

ロビンで慎重に食事と食器を車に積み込み、そろそろと70’Sへと向かう。
やっとの思いでたどり着き、スープの入った寸胴をよっこらせっと持ち上げ、優子ちゃんにドアを開けてもらった。
ドアを開けたとたん、店内からベース音やドラムス、クラリネットやトロンボーン、トランペットのサウンドが溢れ出してきた。

へー。
今日はジャズスタイルなのかな…。
あ、ユッコさんもいる!
やったあ!この前の弾き語り、凄かったもんな…。

だいぶみんな集まってきた。
一平も、おう、ごくろうさん、とそこここから声をかけられる。
片隅で所在無げにしていてたごま塩頭の再任用職員、安藤が、入ってきた一平を見つけて近づき、にやっと笑って一平の肩を叩いた。
「ねえ、となりの子、彼女?」
優子が安藤にキッと向き直る。
「違います!」
「あー、全くもう…。田中さん、きちんと説明しといて下さいね!」
優子はカウンターの中へと駆け込んで行った。

はいはい、分かりましたよ…。

ため息をつきながら寸胴をテーブルに置き、安藤に説明を始める。
あのね、あの子はですね…、と、優子の説明をひとしきり。

なんか最近、これ多いなあ…。

山田が一平達の姿を見つけ、カウンター脇のテーブルで手を振る。
「あ、お帰り!ここに置いて。あと、お皿はこっちね。」
じゃ、あとで、と安藤に言い、再び寸胴を持ち上げた。

一平達が食事の取り分けの段取りをしていると、ドアが開いた。
「こんちは。今日はよろしくお願いします。」
津田と野島琴美さんが入ってきた。
津田はストライプのカッターシャツにジーンズ。野島さんは白いワンピース姿だ。
津田が山田を見つけ、二人連れ立って山田に歩み寄る。
「ホントにいいんですか?こんな格好で。」
「そう。今日はお祝いの会だから。」
「気楽にやろうぜ、ってのが今日のコンセプト。ほら、みんなも普通でしょ?」
「まあ、そうですけど…。」
「楽しいのが一番。だから気楽にやりましょ、ね。」
「はい。ありがとうございます。」
津田の表情が少し和む。
津田のとなりにいた野島さんが山田にペコリと頭を下げる。
「初めまして。野島琴美です。今日はありがとうございます。」
「初めまして。おめでとうございます。わざわざ来ていただいてありがとう。お呼び立てしてごめんなさい。うちのみんなで、ぜひお祝いさせてくれ、ってなっちゃったもんだから。」
「今日は楽しんでって下さいね。」
「ありがとうございます。」
じゃあ、お二人はあそこの席よ、と山田がステージ前のテーブルに案内しようとすると、とたんに津田達を見つけた人達に取り囲まれ、周りに人だかりができてしまった。
「今日はおめでと!」
皆、口々に言い、二人は揉みくちゃだ。
山田がすかさず、ぐいと割って入る。
「ほらほら、そのぐらいにして、二人を席に着かせてあげて。始められないから。」
皆は渋々、自分の席に戻り始めた。

ようやく二人を席に着かせた後、山田が小声で囁く。
「ご祝儀、上からごっそりふんだくってやったから、あとで適当にヨイショしといてね。」
津田の肩をポンと叩き、山田はカウンターへと戻っていく。

山田の後ろ姿を見送りながら、津田が野島に囁いた。
「姐さんには、敵いません。」
「あの人が山田さん、ね。」
「明君から話はよく聞いてたから、どんな人なのかなあって思ってた。」
「綺麗な人じゃない。」
野島はクスリと笑う。
「まあ、外見はあんなだけど、中身が鉄火場の姐さんだから。」
「アネさん?へー。」
野島が遠くで忙しなく動き回る山田を見つめた。
「これからも明君がいっぱいお世話になる人だから、私もお話できるようにしとかなきゃな。」
「おいおい、お手柔らかに頼むよ。」
津田は懇願するように野島に向かって手を合わせた。

一平は優子と共にカウンター脇で、コースの最初のメニューのスープを取り分けている。
田中さん、お皿取って、と言われたので、手元の皿を優子に渡していると、ドアが開いて二人の男が入ってきた。
頭の薄い小男と銀縁メガネ。
水戸所長と山本次長だ。

この二人、薄明かりでもすぐわかっちゃうよな。特徴ありすぎ!
暗がりで一人、クスリと笑う。

山田がすかさず所長達に駆け寄る。
「所長!待ってましたよ!お二人は、あちらにお願いします。」
山田は一平達にクルリと向き直る。
「よし、じゃあ始めよっか!」
カウンター前の優子、木村、一平が小さく手を挙げる。
同時に、カウンターの中にいる70’Sのマスター、ロビンのマスターが右手親指をぐいっと突き出した。

山田がステージ脇に立ち、マイクを掴む。
「えー、みなさんお揃いですね。では津田明さんと野島琴美さんのご結婚をお祝いする会、始めたいと思います。」
いよお!ええぞー!と、テーブルから声が上がる。

「では最初に水戸所長から、ごく手短に、かるーくご挨拶を頂きます。」
飲んでもいないはずなのに、水戸所長がすっかり赤ら顔で立ち上がり、山田の差し出すマイクを掴んだ。
「えー、…。あれ?」
所長が天井を見上げている。
隣の山本次長が、所長と同じような真っ赤な顔をして、銀縁メガネの縁を何度も上げながら下をうつ向いている。
「あ、ごめーん。」
「ここ来る前にちょっと引っかけてきちゃったから、忘れちゃった。」
とたんに店内にブーイングの嵐が巻き起こった。
山田は頭を抱えている。
雛壇の津田と野島さんは腹を抱えて大笑いだ。

「えーと…。」
薄い頭に大量に溢れ出した汗をハンカチでぬぐいながら、水戸所長が続ける。
「津田明さん、野島琴美さん、ご結婚おめでとうございます。郷浜食肉衛生検査所の職員を代表いたしまして。お祝いを申し上げます。」
「えーと、以上、おしまい。あとは各自、お二人にきちんと言うんだよ。」
そう言うと水戸所長はトコトコと自分の席に戻り、ポテンと座った。

山田は一瞬あっけに取られていたが、気を取り直し、仕切り始める。
「所長、ありがとうございました。」
「では津田さん、一言、いただけますか?」
津田が何か思い付いたような顔付きになり、その場ですっと立ち上がって山田のマイクを受けた。
となりの野島さんも一緒に立ち上がる。

「みなさん、今日は僕たちのために、ありがとうございます。」
「昨日、身内で式を挙げまして、僕たちは夫婦になりました。」
「ここ、郷浜で。おじいちゃん、おばあちゃんになるまで、かな?」
津田が野島さんの顔を見る。
「僕たちは暮らしていくことにしました。」
野島さんが小さく微笑む。

津田が一同を見渡し、小さく息を吸い、続ける。
「僕たちが野島さんのおばあちゃんのように、いいおじいちゃんとおばあちゃんになれるかどうか、どうか見ていてください。そしてだめなところはどんどんしかってください。」
「今後とも、いや明日から、どうか、僕ら二人をよろしくお願いします。」

そう言うと津田はペコリと頭を下げた。
同時に野島さんも頭を下げる。

静かに、そして大きな拍手で会場が一杯になり、鳴り止まない。

山田がカウンター脇の一平に目配せをする。

こくりと頷き、一平、木村、優子がビールジョッキを各テーブルにセットした。
最後に一平が山田にビールジョッキを渡す。

ジョッキを片手に、ゆっくりと山田が津田からマイクを受け取る。
「じゃあ、乾杯は私!みんな準備はいいかい!」
おう!と皆がジョッキを持って席を立つ。
「それでは、かんぱーい!」
皆がガツンとジョッキを合わせ、ぎゅっとビールを飲み下す。
いよお、司会、ええぞー!とやんやの声が上がった。

山田がジョッキを置いてマイクを掴み直し、一度うつ向いて一呼吸入れた後、やおら顔を上げた。

「さあ、はじめましょっか!」
山田がカウンターにいる70’Sのマスターにキューを送る!
とたんに大音響でイントロが流れてきた!

あれ?この昭和な感じのイントロ、どっかで聞いたことが…。
そっか、和田アキ子の「笑って許して」だ!

と、ロビンのマスターがドアにスポットライトをあてた!
そこには真っ赤なチャイナドレスにピンヒール、厚化粧でアッコさんのヅラを被ったイカつい大男が仁王立ちしている!
男はカウンターにスタンバイしていたワイヤレスマイクをがしっと掴んだ。
「わらあってぃ、ゆるしてぃ!」
ドスの効いた野太い声で歌い始める。
店内がどっかんと沸き、アッコ!アッコ!の、大歓声が巻き起こった!

ひえー!わ、我妻係長じゃん!

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